何故「渋谷ハチ公前広場」なのか(23日・26日追記)
ああ、ファスビンダーをいきなり見落としてしまった。でもまあまだあるから*1、それとちょっと関係する話です。(追記26日・結局2本しか見れなかった、しかも新たに見たのは「エフィー・ブリースト」だけ(T_T)。すばらしい作品だったけど。)
3月6日にシアタートラムでエルフリーデ・イェリネク「汝、気にすることなかれ」のドラマリーディングが行われました。イェリネクは一昨年のノーベル文学賞を受賞したオーストリアの小説家・劇作家です。この戯曲は1999年に発表された3部構成の作品。今回は第2部まで上演されました*2。イェリネクの作品はフェミニズムの影響を強く受けながら、カンヌでグランプリを取った映画にもなった「ピアニスト」などの自伝的小説から、次第にハイナー・ミュラーなどの影響を受けた戯曲や「したい気分」のような「引用」や「パロディ」を駆使すように次第に変わっていきました。さらに、彼女は、ペーター・ハントケや亡くなったベルンハルトと同じく、痛烈なオーストリア社会と歴史の批判者でもあります。この戯曲も、ハイダー党首の率いる極右政党「自由党」が躍進して政権に参加するのとほぼ時を同じくして書かれました。この作品のミュールハイム演劇祭最優秀劇作家賞の受賞理由は「現在の思考と感覚におけるナチズム構造の存続」を書いたことだそうです。ちなみ、ヒトラーはオーストリア出身です。
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作品はそれぞれシューベルトの歌曲にちなんだ、「女魔王」「死と乙女」「さすらい人」の3部からなります(あ、歌曲は一つしか聞いたことがない)。この構成はイェリネク自身の家族史を反映しています。父は化学者でユダヤ系でありながらナチ支配下を生き延びたけれど戦後は廃人同様のままなくなり、母は「ピアニスト」で描かれるとおりのブルジョア家庭出身で家庭を支えながら厳しい(文化的な)スパルタ教育を娘に施した、とかなり対応しています。幕間狂言的な第2部だけが、続編がいくつか書かれていることもそのことをうかがわせます。第1部は死んだブルク劇場*3の大女優の死体の独白*4、第2部は白雪姫と狩人のぬいぐるみの対話です。第1部の女優はモデルがおり、戦前、戦中(ナチス統治下で)、戦後最近に至るまで活躍した大女優だそうです(発表時は生きていたらしい)。
さて、第1部はこの大女優の回顧のモノローグで、「愛するウィーン市民」に向けられて語られています。ナルシスティックな回顧は、自分の舞台での多くの経験から、次第に自分の属する階級について、俳優という職業の本質である大衆と「総統」を初めとする権力との関係についての語りに進んでいきます。大衆から民衆そこから民族(ドイツ語ではそれぞれ対応する語があるようです)へ形成される過程(そしてその結末としての死)と彼らの「うぬぼれ鏡」として自分が果たした役割を語る台詞は圧巻です(31p〜33p)。おそらく第一部のキーはモノローグのしょっぱなからビデオデッキが出るように、テレビなどのマスメディアによって自らが不死で偏在する存在になったことを語ることでしょう、それは第2部につながります。
第2部は一転して、オーストリアの歴史との関係は(一見)希薄になります。ぬいぐるみにふさわしく、彼らは戯画化され類型的です。ここにいるのは妙に抽象的で軽薄な会話は第1部にい主体とはまるで違う登場人物たちです。「白雪姫」のストーリーの通り、そして先の解釈をたどれば、白雪姫は娘の世代に当たるわけです。その意味で第2部は現在です。「不死」の偏在する社会の形成により代償として死はもう悲劇ではない茶番です、しかし、それは確かに起ります。
第3部は、第1部の「残りのもの」がでてきます、化学者の男の独白です。あ、すいませんが、ここの解釈はこれまでです。
汝、気にすることなかれ―シューベルトの歌曲にちなむ死の小三部作 (ドイツ現代戯曲選30)
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なお、当日一番面白かったのは、岩淵達治さんが「三色の果物入りマーマレード」とは、戦時中の代用品のことだと指摘して、昔のことを大いに語りまくったことですw。
*1:http://www.athenee.net/culturalcenter/schedule/2006_03/fassbinder01.html
*2:http://www.goethe.de/ins/jp/tok/ver/ja1230702.htm
*3:帝政下から続くウィーンの名門劇場
*4:『ブルク劇場』という作品も書いている