国連では本当に硫黄の臭いがしたのか?(3月24日、25日、要点をまとめた追記をつけました)

 id:Tezさんのブックマークを読んでこれはちょっとまずいなと思ったのでとりいそぎで書きます。正直言うと最近のベネズエラ情勢はあまりフォローしてないのだけど、どうやらあいかわらずひどい報道の状況のようなので。


http://b.hatena.ne.jp/Tez/20110324#bookmark-35076597
>>かつてのトルクメンバシも素晴らしかった./大佐の国のニュースでもたまにお見かけする.反米・反資本主義だというだけで擁護するインテリも昔はいたのだが,最近はとんと見かけなくなった


 まずこのブクマがついているエントリーですが
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2011/03/post-917e.html
http://b.hatena.ne.jp/entry/kirik.tea-nifty.com/diary/2011/03/post-917e.html

 ブログ主の「切込隊長(山本一郎)」氏については私は正直ほとんどフォローしていなかった人だけど最近の微妙に私の近くでのツイッターでの騒動でさすがに注目したわけです。

http://togetter.com/li/104716
 もう少し解説があるまとめがほしいですが。ちょっと見当たらない。*1


 とりあえず、ネタにされている記事を読んだわけですが。
http://www.reuters.com/article/2011/03/22/us-venezuela-chavez-mars-idUSTRE72L61D20110322

http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPJAPAN-20195620110323


 もとになったであろう記事(ブログによるとあるそうです)を読んでないで書くのは何ですがこれはちょっとひどいなと。元記事も、翻訳も、ブログでの取り上げ方もです。とりわけ翻訳では後半がばっさりカットされている、この部分は火星での生命についてのアメリカでの科学的探査の進展について記述しています。実は正直、ロイターのこの元記事がいかなる意図で書かれたのか私にはほんとにわかりません(あと切り込み隊長氏の言及した記事はまだ見つけられない、せめてロイターの元記事くらいブログからリンクしてくれればいいのにw)。ただ、この後半を抜いちゃったらこの記事はある意味別の記事になってしまいます。つまり揶揄や軽蔑としてのニュアンスがはるかに強くなるわけです。

 で、これが揶揄として機能するにはチャベスが「火星は資本主義で滅んだ」とコンスタティブに本気で語っているかが問題になるわけです。これは翻訳においては

火星で生物の存在が確認されていないことについて、資本主義による悪影響が原因であるとの「自説」を唱えた。

 そのような前提に立っていることが示されているんですよね。ちなみに元記事にはチャベスの発言の引用のみがあって記事の書き手としての意見を書いた、これに対応する文章はありません。ともあれ、翻訳を読んでも元記事を読んでも私にはチャベスはジョーク(皮肉)を言っているとしか思えないのですね(下手なジョークだけど)。本当にチャベスが言いたいことは「世界が抱える諸問題について、その多くは資本主義に由来するものであるとし、地球の水資源は枯渇しつつあると警告した」であり、「地球もこのまま乱開発が進めば火星みたいに荒れはれててしまう」という程度の意味でしょう(「大統領は「世界水の日」を記念する演説で」とあるのですから)。


 そもそも火星についての発言がかくも厳格に理解されるなら、2006年の国連総会での、「悪魔が昨日ここに来ていた。今日も硫黄のにおいが
残っている」という発言はどうなるのですかね。
*2
どうして誰もチャベスは文字通りの「悪魔」の実在を信じている、これはやばいとか、「硫黄の臭い」がするのはほんとか確かめろと言わなかったんですかね?。


 つまり、本当の問題は少し考えれば思いつく可能性を問題のブログを読んだ誰も気づいていないことです。まあ「対偶は常に真ならず」とのたまう人がそういう間違いをすること自体はなにも驚かないけど、これになんも考えず納得する人がぞろぞろ現れるのは...。


 ロイターの記事は元記事もそうだけど、特に翻訳(というのかこれ?)はひどいなーと思うけど、結局チャベス大統領という人物がこのように以下にテキトーに記事を書いてもいいとして欧米や日本のメディアでは一貫して扱われてきたわけです。政治的理由もあるだろうし*3、本人の発言にも相当に問題がある。もうひとつオリバー・ストーンが言うような理由もあるのでしょう*4。ともかくメディアにこのような問題があることは理解しないと。日本のネットはもっとひどい。で、さすがにTezさんまでこうだとちょっとまずいなと。(特にまだニヤゾフが生きていたころの)トクルメニスタンとベネズエラの人権や政治の状況は日本とリビアほどでないにしても相当違いますよ。



 私自身はこの手の言説にあふれているレイシズムが本当はいやなんですが*5レイシズムという枠をはずしても、こういう「不謹慎な発言」が跋扈する理由の一つの説明としてこのid:frullyさんの記事をリンクしておきます。
http://d.hatena.ne.jp/flurry/20110322#p1

 ただ、ちょっと疑問があってこのエントリーは「モンティ・パイソン」と「モンティ・パイソンファン」を区別して後者を批判してるんでしょうか、それとも「モンティ・パイソン」自体が批判の対象なのか、私には持ち出し方が唐突に思えてちょっとわからないのですが。私はモンティ・パイソンをほとんど見たことがないのでなおさらわからないわけです。


 あと念のため、私はチャベス大統領の政治や発言にはかなり批判があります、でも基本的には支持をしていてこういう記事を書いているわけです。いちいちこういうことを書かなきゃいけないのもましかたないですか...。



http://sankei.jp.msn.com/world/news/110316/amr11031618330006-n1.htm
 ふと気づいたけど日本での事故にびびって原発計画を凍結してしまうチャベスより、閣僚から「力強い」原発推進発言が出てくる日本のほうがよっぽどましというのもあるのかな?


整理して要点を書いた追記だよ・25日


 なんかいろいろわかりにくいエントリーになってしまったので追記です。まあ、IDトラックバックを送った人に通じていればそれでいいのですが。かなり泥縄式に書いたエントリーで、flurryさんのエントリーについての部分なんかは書いてる途中で付け足したわけです。おかげで私の主張の基本部分がはっきり現れていないのでちょっと追記します。


 切り込み隊長氏の主張は「チャベスは理解不能な主張をしており、それゆえチャベスは「いま現在の世界を見渡して、なるほどこれはキチガイだ、菅首相なんか足元にも及ばないヤバさを感じずにはいられない」人物であるといっています。それに対して、私はチャベスの火星の生物についての発言は国連での「硫黄の臭い」発言と同様のあんまりできのよくないレトッリクを使ったジョーク、もしくは皮肉であり、その当否はともかくごく簡単にどのような意図とで言ったかはかなり簡単に推測することができると述べたわけです。少なくとも「なぜか」問題のエントリーからリンクされていないロイターの元の英語の記事を読めばあきらかだと。
 切り込み隊長氏はなにせ「排中律は詭弁」だとか「対偶は常に真ならず」とおっしゃる方なのでここでは問題にしません。このようなこれまでの問題も知っているであろう多くの人が「理解不能だ」「トンデモだ」「チャベスは狂人だ」と言った類のブクマコメントしており、これらの行為は何ぼなんでも怠惰で愚劣過ぎるのではないかというのが私が思ったことです。*6

 しかし、ご自分はベネズエラ人よりかしこいと思っているらしきこの人たちを見ていると「政治は人民の程度を映す鏡と言われ」ますけど菅首相ですらちょっと彼らには過ぎた人物かと思えてしまいます。*7


 さらにもう一つはこのロイターの記事の日本版の翻訳が相当酷いということです。これは訂正ですが、翻訳を引用して元記事には「これに対応する文章はありません」と書きましたが、よく読んだらタイトルと本文の間のサマリーがほぼ対応しているのですね。これは申し訳ありませんでした<(_ _)>。ただ、翻訳では「資本主義による悪影響が原因であるとの「自説」を唱えた。」とわざわざ括弧をつけるなどチャベスが問題の主張を本気でしているというニュアンスや、揶揄を付け加えて相当悪質なのですが。まあ、その他を含めこういう記事の改変自体が「人民の程度を映す鏡」ではあるようです。ただ、さすがにTezさんにはちょっとそのコメントはまずいのではと忠告したくなったわけです。*8


 で、最後にこのような醜悪な行為がなぜ起こるのかについての考察するためにflurryさんのエントリーは有効ではないかと紹介したわけです。というわけでこの追記を読んでからのほうエントリーの本題はわかりやすいと思います。では失礼しました。*9


レトリック論を学ぶ人のために

レトリック論を学ぶ人のために

 レトリックについての入門書

*1:その後のツイートが拾われてる、http://togetter.com/li/104805

*2:http://list.jca.apc.org/public/aml/2006-September/009051.html

*3:この指摘などは好例です>http://www.venezuelanalysis.com/analysis/2654

*4:http://jp.reuters.com/article/entertainmentNews/idJPJAPAN-15588920100531 「米国やアングロサクソン系のメディアがチャベス氏の語り口を理解していないのは間違いない」

*5:私はこの点で自称右翼より自称保守のほうが嫌いです

*6:http://b.hatena.ne.jp/entry/kirik.tea-nifty.com/diary/2011/03/post-917e.html

*7:追記・彼らによりふさわしい野田首相が誕生しました

*8:http://www.reuters.com/article/2011/03/22/us-venezuela-chavez-mars-idUSTRE72L61D20110322

*9:http://d.hatena.ne.jp/flurry/20110322#p1