サラ・ケインって誰?

 上で出てきたサラ・ケインについて説明。1971年に生まれて1999年に亡くなった劇作家、初期にはきわめて暴力的なイメージに満ちた戯曲を書いていたが、98年の『渇望』を境に通常の戯曲形式を離れて、アルファベットで現される4人の言葉で構成される特異な戯曲に移行、続く遺作『4時48分サイコシス』では登場人物まで消えてしまう。基本的に、モノローグ、医者と思しき人物の発言、様々な(聖書やホロコーストからカルテまで)、引用などで構成されている。なお、「解離」という用語はシンポジウム「サラ・ケインをめぐって」でのこのような作品の特徴を指していわれた言葉。私は彼女の戯曲にに感じるどうしょうもない閉塞性(空虚さ)と同時代的共感を表すいい言葉だと思います。

 『エルドラド』は最後に題名のエルドラド(黄金郷)を描写する場面(サラ・ケインでは光は死のメタファーになっており、夫はこの後自殺する)、戦争のような大文字の現実のあえてなされる描写など、「解離」の中にいる「われわれ」を表現するためにこれらを上手く戯曲構造の中に組み込んでいる。しかし、それがドイツの演劇の伝統という資源に依存しているのもまた確かです。なお、舞台芸術8号*1を参考にしました。